POETRY DIARY
失われた時(ヘヴン)への回帰

「レイン ドッグ」

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今後は、できるかぎりブログのところで書いていくつもりです。



2006・12・07(THU)

 犬とオオカミを区別できなくなる
        きわめて危険な畦道のなかで

二上山の峯へ沈みゆく日輪と
それ! 
かけっこだ
畑をぬけ
工場をさけ
あぜみちを突っ走る
ぼくと
友人と
それよりも加速する日輪のやつ
はやいな
速いぞ
時があんなにも走っている



2006・12・03(SUN)

 骰子橋界隈

きゃつらときたら まったく杖の好きな連中で
暇さえあれば 杖のはなしばかりをしている
大納言は金銀鈕荘唐御杖刀(きんぎんでんそうからのごじようとう)
     がお好きで
小納言は漆塗鞘御杖刀(うるしぬりさやのごじようとう)がたいそう
     気に入っている
また 中将は呉竹鞘御杖刀(くれたけのさやのごじようとう)で
博士は玳瑁八角杖(たいまいはつかくのじよう)がお気に入りのよう
     だ
もちろん あの方は玉杖(ぎよくのじよう)がお望みだけれども
まだ誰もそれらの杖を持ちあわせていないから
きゃつらとあの方は石のように重くて大きい正倉院の巻物をかかえ込
     んで
母の大切な尾鰭でつくった鮫皮の杖を持っているために
「北倉」だの「中」だの「南」だのとうるさくてかなわない
われには卯杖というどこにでもある椿の木でこさえた尾ッポがあって
われが通ると悔しいか きゃつらとあの方は石をなげる
だが 魑魅魍魎をはらう卯杖(うづえ)という椿の素敵なステッキの
     尾がわれにはあって
尾ッポをくるくると回せばそんな石などいっこうにかまわないが
兄様や 姉様 弟たちは
母の大切な尾鰭でつくった鮫皮の杖を持っているために
きゃつらとあの方はその杖が欲しくって欲しくってもうたまらなく欲
     しくって
それでもって兄弟たちが弓矢で襲われるのが悔しくてしかたがない
われはひねくれ者の天ン邪鬼育ちの木偶ノ坊阿弥だから
鮫皮の杖なんぞとうにあぶって醤油付けにして喰ってしまったが
いまでは水司(みづつかさ)を装っているから大丈夫であるが
母の鮫皮でできた杖を持った兄弟たちは
ただ美しいと云うだけの杖なんかじゃない牙を持っているのだから
本当はよく斬れる直刀の仕込杖を隠し持っているわけなんだから
かぶっと一口にやつてしまえばいいようなものの
なかなかまったく いらいらするほど優しい一族なのだ
骰子橋の下でわれは清盛殿に拾われて育てられたから大丈夫だけれど
     も
いまは 水司魚麻呂 を装っているから当座の間は大丈夫だけれども
母が亡くなってからは最近 なにかがどうもいけなくなった
椿の尾がだんだんと短くなって 自然 鮫皮の尾がまた生えてきた
兄弟たちとおなじぐらい立派な仕込み杖にまで成長してしまったから
兄様や 姉様 弟たち同様に
もう陽のあたる坂道をわれも歩くことができなくなるだろう
舶来のミネラル・ウォーターがこんなにも売れちゃって
水くさい井戸水は用済みになってしまった
水司の職もこれで万策つきて はや「ご用済み」とかや
兄の金銀鈕荘唐御杖刀 姉の漆塗鞘御杖刀 弟の呉竹鞘御杖刀
妹の玳瑁八角杖などみな略奪されてしまうことだろう
そのまえに われら一族皆殺しにされるまえに
かぶっと一口にやってしまえばよいようなものの
おれたちときたら いらいらするほど優しい郎党なのだ
「やりたいようにやらせておあげ」と 海の母の声が聞こゆ
われの尾の卯杖はもうすっかりと玉杖を整えてしまった
あの方 つまり清盛殿が欲しがっていた玉杖だ
父を殺すか… 海へ還るか…
「やりたいようにやらせておあげ」と ふたたび海の母の声が聞こゆ
清盛殿の御一門とはおそかれはやかれ壇ノ浦の合戦でまためぐり逢う
     のだから
やれほれ残酷 無残やなほれほれ
「いずれ海の真底にてわれらが宝となる日もまたあろうに」と 海鳴
     りが声する
それまで待とうぞほととぎす


2006・11・20(MON)

 星となれるのだから

ツーンとしたご婦人方や
灰色の服を着た紳士たちは
おれのことを教養なきゴリアテと呼ぶが
そんなことは甘んじてうけよう
ニコラ・ニコというおれは俗物かも知れないが
ジジやベッポ
モモがそばいてくれるのだから
明日は
ゼクンドゥス・ミヌティウス・ホラの
ほら?
ね!
機械音のない国へ果てるのだから
インテリゲンツェンなカシオペイア座のそばの三角座
の奥で光る星となれるのだから



2006・11・19(SUN)

 聖なる石

死ぬという行為に君はとり憑かれたことがありますか
ぼくにあったといえばあったがないといえばない

・・・・・が

こんなふうに死ねたらいいなと思ったことがあった
それは隕石に打たれて死ぬことだった
天の中心からぼくだけを狙って落下してくる隕石の鉄拳
この使者に殺られて死ねるならなんて祝福なことだろうかと
天とぼくをむすぶ一直線の意志

・・・・・・・・・に

あたって死ねればいいなといつも思ってはいるけれど
天がなかなかそれを許してはくれないのだ

・・・ああ

だれがこのぼくを石もて裁いてくれるのだろうか
聖なる鉄拳の意志ある石で



2006・11・13(MON)

 小千鳥の子供

海にそびえたつ栄光のえんとつが
みそぎをすませて折れている
かって龍が炎を吐くように
長くて不気味な首をもった怪物で
物質科学というどうしようもない名のドラゴンだった
ところが
ある晴れた日の午後五時に
勇気ある一羽の水鳥が飛んできて
しろがねの肉体を武器にした
 
  嘴を
  胸を
  肩を
  翼を
  血を
  骨を

えんとつの心臓へぶつけた
一撃をあたえられたえんとつは真二つに折れ曲がって
工場の屋根にむかって砕け落ちた
白き喪服を着て飛来した水鳥の犠牲によって
ふさがっていた大空の道は解放され
「この地球上にいかなる風が吹かなければならないのか」と
深々と流れゆく赤い夕焼けのなかで小千鳥の子供だけがそれを
                          見ていた
大空の扉は開かれた

  月が
  星が
  雲が
  風が

ククゥと笑った
それを見ていた小千鳥の子供もククゥと笑った



2006・11・09(THU)

 光る鳥

光る鳥が飛んでゆくよ
どこへ飛んでゆくのだろうか
遠ざかるように思えるが
世界はまん丸くつながっていて
両手をいっぱいにひろげれば
またいつだってその中へ帰ってくるよ
だから
見えなくなってしまっても
すべてが終ったわけではなくて
ことはゆるやかに進んでいるのだ
たとえうっかり忘れていても
自然界という営みの中で
新たかに
生れかわり
しーんと静かに帰ってくるよ
ほら
ね!
また
光る鳥が飛んできたよ



2006・11・05(SUN)

 慈 悲

仁王にむかって
紙を咬んでふきつけると出世する
そんな話をききつけて
近くの公園から二、三人のホームレスがやってきた
威勢よく紙を咬んでふきつけていると
「喝!」と
なにかが頭上から落ちてきて一人へ当たった
見るとホームレスたちが食い散らかしたシャケ缶の空缶で
仁王門の屋根の上からカラスが落としたものだった
そばにいた男どもが胸を張って愉快に笑った
カラスがクワーッ、クワーッと鳴いた
すると男達の暗い顔が
皆いっぺんにカラッと輝いた



2006・11・03(FRI)

 浮世騒動

襤褸の男が
手にパン屑を持ちながら
日向ぼっこをしている
襤褸の男が手をふるたんび
鳩が群れて飛ぶ
すると鳩を狙う猫がやってきて
つぎにその猫をいじりたくて女がしゃがむ
女がしゃがめば男があつまり
軽自動車のラーメン屋が繁盛する
突然!
ラーメン屋に気を取られていた自転車乗りとタクシーが激突する
警官がやってくる
パトカーがやってくる
救急車がやってくる
なんだかとても騒々しくなって
鳩は
猫は逃げていく
襤褸の男が
ひと知れずに蒔いたパン屑がもとの
われらが身の前は露ほどもわからぬぞ白菊や
やれ命の騒動


2006・10・30(MON)

 コルク栓の巣箱

コルク栓を真っぷたつにして
なかをくりぬき穴をあけ
ちいちゃなちいちゃな巣箱を作ろう

くもの
はちの
かみきりの
てんとうむしの
ほしうすばかげろうの

棲んでいそうな足曳きの野へでかけ
コルク栓でつくった虫の巣箱をくさむらに
そっと仕掛けて帰ろうよ


2006・10・29(SUN)

 軒下で

雪ん子降れ
  風ん子吹け
こんなに凍えているけれど
天はほんとうに怒っているのだから
しかたがない
いのち炭焼きの小屋の軒下で
おしくらまんじゅうする雀の子
雪ん子降れ
  もっと降れ
風ん子吹け
  もっと吹け



2006・10・26(THU)

 チャンの家

瀝青の家を見にゆこう
あんなに小さく
錆びて崩れて揺れている
だが
瀝青の小屋は
オオタカや狼たちが
旅に疲れたけものの道で
ほんの一瞬
身を横たえて眠る家
だからこれ以上近づくな
要するに永遠に



2006・10・23(MON)

 罠

ここはホホジロの通り道だぜ
金融関係の看板なんて
邪魔くさい罠は外しちゃうから
そら!
高いぞ高いぞ
低くとべとべ垣根のホホジロ



2006・10・22(SUN)

 軸にても候か

首筋をかたむけて
驚きに耳ひらく汝よ
汝のこころは
天と地と月と水とを越えて
うすら明かりのなか
湯気の階段をのぼりつつ
大いなる虚空へむかい
嘘いつわりなく越えてゆく

鹿の呼ぶ笛の音して
松の吹く風の音して

汝はさみどりの葉を齧る
天は地は 月は水は

すべからく此処にても在れ
一輪の花が咲く
これ夢にして夢にあらず
うつつにしてうつつにあらず
軸にても候か
一瞬のzigzagに綾をなす
ふるき屏風の中の
秋の夕暮れ



2006・10・21(SAT)

 Vの記

その影はもういないのです
図鑑にはさもいるように記してあるが
みんなうそっぱちです
この理科室の壁にかかった大きなVの角
あれがほんとうのぼくなんです
いまでは釘づけにされて



2006・10・18(WED)

 へらじか

大人になるということは
すこしずつ狡猾に
なって立派な人間というものになってゆくことなのかもしれないが
落ち葉こぼれし柏葉の
かすかに残るやわら毛を
みつけるほどに優しくなれて
ふぬけ藁人形を焼きすてる
そしてぼくはぼくの荒野へとぼくをとき放ち
とぼとぼとぼとぼとぼとぼと
なんだか小さくなってゆく自分だけれども
とぼとぼとぼとぼとぼとぼと
落ち葉こぼれし柏葉の
かすかに残るやわら毛を
両の耳へつき立てて
あの青い箆鹿の牡のように
凛として歩こうか
腕も脚もたいそう長くなったのだから


2006・10・17(THU)

 審判

ひとにあたりまえのことをいったら
「まあ、かりかりせずにのんびりいこうじゃないか」といわれた
それもそうだが
ぼくたちはこうして
とても大切なことをはぐらかして生きている



2006・10・16(MON)

 雨の犬

すんすんと気取ったねいちゃんが
雨の日に犬をつれて
美容院へ入っていった
犬は表に待たされて座っていたが
鎖を短く結んであったので動けなかった
雨がどんどん降ってきて
雨はざあざあ降っていた
雨ドイから溢れ出た雨水が落ちつづけ
逃げ場のない犬の頭を打ちつづけていた
雨はどんどん降ってきて
雨がざあざあ降っていた
俺も逃げ場のない
雨の犬だった