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I L I A S & O D Y S S E I A 「ないない王とトロイアの女たち」詩画 + 凪渚のオデュッセウス 2018_09 その男はアルゴスという小犬をポケットにいれて今日も海辺へむかった。男は知恵があるぶん やることは非情で、悪名高き策略家という噂があった。むろんそういう男ではあったが、ギリ シャの詩人ホメロスが書いた『オデュッセイア』の主人公であり、えげつない汚さや暗さはな かった。 男はイタキという小さな島の王で、島には西風がいつも吹いていた。だから西のことはなんで も知っていたし、東のことさえわかっていた。風は球体を循環していたから、東の国のうわさ 話などはあとでゆっくりと聞けばよかった。西を先取りして、東を取戻し、中の中を取るとい うふしぎな男であった。 中の中取りには秘密があったが、男はその術をいまだ知るよしもなかった。 気がつくと、サンダルの紐がほどけていたので結ぼうとしたとき、ポケットから愛犬のアルゴ スがころころっと転がりでてしまった。捕まえようと思えばおもうほど砂浜を転がって、とう とうどこかへ消えてしまった。すると風がやんで、海が凪いだ。しずかな刹那とすれちがった 男はパッと一瞬だけ消えて、のっぺらぼうの「ないない王」になった。けれども、自分が多中 心の中の中心にいることを知らないでいた。 はた目でみていても海はさっきからずっと荒れていたし、西風も朝から休むことなく吹いてい た。東から吹いてくる風もピューピューとあとからついてきていたし、イタキの島はいつもと かわりなくそこにあった。 まけじたましい 2018_10 無鉄砲なことをいえば、エーゲ海はひとつの都市である。 むろんそこに浮かんでいる島々はそれぞれの〈シマ〉であり、守るべき火場所であって、アス ファルトに点在する島々には神殿もあれば城もあって、館や樓郭、映画館やサーカス一座の見 世物小屋、鍛冶屋、考古学博物館、バラック、植物園などなんでもあった。寄り道するにはこ とかからなかったが、橋をわたったり船にのっていかなければならない〈シマ〉もあった。だ が中心街の山道をのぼった一郭には立寄りがたいほどツンと澄ました高級住宅地があって、赤 ら顔をした〈神々〉と呼ばれるわけのわからない連中が住んでいた。そんな時代のそんな街は ずれにあったイタキという貧しい島に、その男は住んでいた。 ところがこの男のことを知らないものはいなかった。けむし男、のっぺらぼう、イオニア海の 田舎者、愚者、ひねくれ者、ペテン師、知恵者、浮気者、さまざな悪名や異名で呼ばれていた 。ともかくも、なんにでも対応できるマルチな男であった。人であれ神々であれ、その男の力 を利用しようとする反面、恐れられてもいた。では、何者であろうか…。オデュッセウスとい う名の金看板を背中にしょった、とびっきり繊細で無欲透明な般若王であった。けれども般若 だという本性をだれも知らない。 魔 都 2018_11_30 もはやこの都市は魔都となり、魔都はやがて流産をする。ここにひとりの女がいて、女の名はクリュタイムネストラというミケネの王妃であった。王妃には父が異なる妹がいて、母は互い にレダであったが、妹の父親は白鳥と化してレダを犯したドン・ゼウス様であった。この妹こ そが魔都をつくりだし、隣街のトロイア王国を全滅させた張本人であった。けれども、いまト ロイアは巨万の富を誇って東の丘陵に陣を張る王国で、「月下一群一党組」と名乗っていた。 かの妹の名はヘレネという。亭主はスパルタ王メネラオスで、亭主が留守中にトロイアの王子 に口説かれて駆落ちする。おどろいた亭主の泣きついたところがクリュタイムネストラの夫ア ガメムノンのところだった。ややこしいことにアガメムノンとメネラオスは兄弟で、兄のアガ メムノンはミケネはもとより、魔都の西一帯を牛耳っている総長で、「太陽族」の大親分であ った。ゆえにアガメムノンはこの機をにらみ、西一帯の組長をすべて呼びあつめ、財宝や利権 獲得のための 戦争をトロイアに仕掛けた。 オデュッセウスも例外にもれず出陣したが、十年戦争の末、「太陽族」はこの男のおかげでな んとか勝つことができた。しかしトロイアの男はもとより、西一帯の男たちもオデュッセウス ただ一人を残し、やがてだれもが死んでいった。生き残ったトロイアの女たちはオデュッセウ スを恨みつつ、流れ流れて「人魚館々亭」の樓郭にて未来永劫その男をまちぶせる。 オデス 2018_10 僕のイ |